本記事は『流星ワールドアクター』の感想です。
盛大にdisります。ネタバレを回避したい方は回れ右です。
なお、他のゲームの内容のネタバレが含まれることをご了承ください。

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今回の感想を書くのに、全ての個別ルートとその分岐部付近を再度確認しました。
その結果、自分が初見プレイ時に抱いたものとは全く違う感想になったので、今回は体験版プレイ時の印象との対比は割愛します。



この作品の一番罪深いポイントはepilogueの存在です。
まずは、このepilogueを簡潔にまとめてみましょう。

①全個別ルートを並列化して合成したルートの示唆
②ストライコスによる教団構造の錯覚の「仮説」

まずは①から。
この「個別ルート並列化合成」を上手くやった前例は、『あの晴れわたる空より高く(以下はれたか)』(chuablesoft)です。

はれたかでは、大会でのバディをどのヒロインと組むのかで個別ルートが形成されています。個別ルートの締めは、その大会で主人公とヒロインが協力して工夫して結果を出す、というものでした。そして、そのいずれも経験した結果(主人公がヒロイン全員とバディを組んだという5つ目の選択肢)としてのグランドルートが形成されてます(ただし恋人関係になっていない)。

並列化合成の必要要件として、
⑴時系列におかしなずれを生じさせてはいけない
⑵同時に存在できる経験値が矛盾しない
が一例として挙げられます。

この一例として挙げた必要条件から分かるようにかなりriskyな行為です。
⑴により各ルートを重ねたときに同時に起こる出来事があってはならなくなり、
⑵により矛盾するような能力や立場の変化を起こしてはならない、と言えます。

つまり、このepilogueの存在は、個別ルートに制約をかける存在となったわけです。
これは、私の中で評価の低い、シフォンルートとクラリスルートに色濃く反映されています。

シフォンルートにおいて、シフォンは別の立場(デルーガ討伐役)を得たにもかかわらず、元と同じ立場(ストライコスに雇用される立場)にあり、それ以上の物語を紡ぐことができていません。

クラリスルートは、主人公と結ばれたことがなくても同じ(このエピソードの名脇役と言えるリンダの存在をガン無視)と言えるようなエピソードでEDを迎えています。特にこのクラリスルートの最後のエピソードの存在は、それまでのシナリオの存在価値を全消しにしており、クラリスルートの価値を極端に下げています。

全く「大嘘つき(オールフィクション)」(by『めだかボックス』)じゃないんだからこんなことする価値なんてないのに......。


ルート同士を合成してもシナリオに矛盾がないようにするために、個別ルートに関連するシナリオのエンタメ性は犠牲になったと言えるわけです(実際どっちが原因でどっちが結果であるかは分かりませんが)。
そもそもエンタメが作れないやつは、エンタメなんて作るな!としか言い様がないです。矛盾がないことはもちろん前提ですが。


……
……

考察を続けます。

では、今回比較対象となっているはれたかにおいて、なぜこのようなriskyなことが行われたのでしょうか?
並列化合成の十分条件とは何か?を考えると解釈できます。

はれたかのグランドルートは、個別ルート全ての上手くいった結果があってこその展開でできています。犬猿の仲にあった、大会での対戦相手をも味方につけて、ロケット打ち上げを目指す……そんなグランドルートです。対戦相手を味方につける要素として、個別ルート全ての結果が必要ですし、それを反映させた対戦相手の言葉は、非常に身にしみるものがありました(→中身は自分でプレイしてね)。

並列化合成の十分条件は、「成長の化学反応」だと思います。
主人公の成長、ヒロインの成長、サブキャラの成長……、様々な成長が互いに影響し合って、さらなる成長となり、物語は次のステージへ進んでいく。それが一つの感動の形だと言えると思います。

さて、本作はどうでしょうか?
本編、個別ルート……、誰がどのように成長したでしょうか?
epilogueでの抽出部分、成長になにか関わることがあったでしょうか?

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なーんにもないんですよ。
主人公やヒロインで唯一変わっているのは、シフォンの形式上の立場だけで、それ以外なにもない……。
出来事を経て、何も変わってない人たちの物語なんですよ……これ……。

そりゃなにも起承転結の結が汚いわけだし、ルート終えても「ここで終わり?」感が出るわけですよ。

そして、これが「続編」に全く期待できないポイントでもあります。
続編を作成するとしたら、このepilogueから推察するに、グランドルートを主軸にしたものとなると考えられます。
繰り返しになりますが、グランドルートは「化学反応」を起こすためのものです。
ですが、上述の通り、その素材が腐っています。
素材が腐っていて、どうしてより良いものを作れると思えるのでしょうか?
どんなに頑張っても、本作の焼き回しレベルにしかならないと思います。
だって、キャラ設定がほとんど変わらない登場人物が動いたところで違うものにはならないでしょ?





続いて、②ストライコスによる教団構造の錯覚の「仮説」 について触れるとしましょう。
と言っても、もうほぼ答えが出ているようなものですが、少し別アングルから見ていこうと思います。

この『流星ワールドアクター』を「『名探偵コナン』の黒の組織を追う話」に例えたエロゲ感想ブログがありましたが、なかなか皮肉がこもっていると私は思います。

『名探偵コナン』は、主人公コナンが超能力じみた推理能力をもって、証拠を警察から得て、それを元に自分でさらなる証拠を見つけ出し、犯人を見つける推理物語です。

それに本作を例えるならば、
・得体の知れない黒の組織=教団
・主人公たち警察組織=FBI(≠コナン)
といったところでしょう。

プレイ済みの方だとこの時点でお気づきの方はいるかと思いますが、
「ストライコスの仮説」は、明らかにコナン型の推理なんですよ。元警察の人間(=ストライコス)らしからぬ推理なんです。
この辺から各個別ルートのEDやepilogueの後付けの匂いを私は感じます(が、真実は制作関係者しか知りません)。
もちろん、先のお話同様、矛盾はありませんよ。
でも、この仮説がもたらすものは何もないんですよ。当たっていても間違っていても話はどうにでもなるんですから。



正直ここまでシナリオに関して延々disって来ましたが、これが作られる経緯で何があったかは分かりません(完成品から読み取れる範囲を超えているため)。
ライターのシナリオの書き方の問題なのか。
ディレクターがライターを補助できなかったことが問題なのか。
それともプロデューサー(アシスタントプロデューサー)が時間や人員を用意できなかったのか。

ただ、これだけ実力ある絵師さんやグラフィッカーさん、声優さん、音楽屋さんなどを集めて、実力を発揮させておいて、シナリオ一つでぶち壊すのは、本作に関わった人全員が可哀想だなぁと私は感じます。



※今回、個別ルートに関する細かい言及は、上述に似た方向性の結論にしか至らないと思うので、割愛します。


一応後半に改善案のようなお話をいつも混ぜるようにしていて、その案もあるんですが、正直書くのに疲れたので、追記する機会があれば追記します。気持ち的に萎えました。


最後になりますが、エロゲーマーが将来的に不利益になる賞賛をすることは良くないと私は思いますし、その一つの意見表明として、今回このネタを書きました。「いつもの衣笠」とかいう定型句に惑わされず、制作者もプレイヤーも「ひとつのエロゲ」に向き合うことが大切だと私は思います。