本記事は偶然見つけた二次創作小説(R18)の感想です。

原作は2016年minoriから発売された罪ノ光ランデヴーです。
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※リンク先はR18の公式HP

そのヒロインの一人、風香にスポットを当てたアフターストーリーです。

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※画像リンク先→今回の二次創作小説


小説なので、いつものエロゲの感想と異なり、中身に細かく言及する方式になっています。
なので、読んだ上での閲覧を推奨します。















読後直後の感想として、自分の中で一番思ったのがこれです。
    「この結末こそ、やはり風香ルートらしさ」
 個人的な解釈ですが、本編風香ルートのエンドは「若さゆえの逃避」でしたが、この風香アフターで「まっすぐ見定めた逃避」として完結している印象です。「罪」や「逃避」の重さを実直に感じられました。
   

    今回の小説の構造としては、基本は優人目線で、風香sideは風香目線での内容になっています。優人自身、「罪の重さを背負うべき」という前提を抱えており、それが小説の文章中にて、地の文のリズムの中でアクセント的に重さをつけていたのが、風香ルートらしさを印象づけてくれました。
   
    実際の例を見ていきます。
   
    1. 序 新しい生活 より
        >風香は公務員試験を受けた。理由は単純で、安定しているから、そして高卒でも働けるからだ。
        >大学に行くべきじゃないかと反対はしたが、風香は早く自立がしたいからと聞く耳を持たなかった。
        >学園の教師たちはさぞ驚いただろう。公務員になるにしても、大学進学をしてからが普通のルートだろうし。
        >それでも、風香は俺との将来を第一に考えてくれて、就職すると言い張った。
        >ずっとそばにいて、罪を共に分かち合うために。
   
    1. 序 二人の距離感 より
        >二人して珠里村を出た時はどうなるかと思ったけど、なんとかなってしまっている。
        >安心というよりも、正直言うと、恐怖が少しだけあった。
        >こんな上手くいくなんて、どこかしらで落とし穴があるに違いない。
        >だって、俺たちは罪を犯しているんだから。
            (中略)
        >故郷のみんなを捨てて、俺は自由を手にした。
        >恋人であり、姉である風香(しおり)と結ばれた罪に対する罰なんだ。
        >自由を得るには、責任が伴う。
            (中略)
        >電気を消した暗い六畳一間。
        >決して裕福ではないし、将来のことなんて不安しかないけれど。
        >許されない罪を二人で背負いながら、俺たちは幸せに生きている。

    1. 序での主な部分を抜き出して見ましたが、1章前半では罪の鎖が彼らに絡まっている感じをチラ見せして、後半ではその重さを地の文を重ねて訴えかける形で、序盤における(読者への)引き込みを助けてくれるものになってくれました。
   



    2章にて優人sideと風香sideに分岐してます。優人sideではカフビ、風香sideでは恵美という新しい人物が登場します。この二人を対比が面白いと感じました。
   
        カフビ
            バイト先に新規外国人バイト
            違法渡航者で、嫁と娘がいる
            言葉が不自由ながらもなんとか意思疎通。怒られ続けてもバイトを継続
            優人が絵の出来事を通して信頼を置き始めた人物
        恵美
            転校前からの友人
            父親が母親を殺したため、祖父母に引き取られた
            思っていることを率直に話すやや不器用な性格
            風香が転校前の出来事を通して信頼を置く人物
   
    主なところを箇条書きにしましたが、この違いが3章での違いに直結する点が設定に無駄がないと感じました。
    2章の中身としては、優人sideでは優人自身の観察力の強さが、風香sideから共通にかけてでは風香の脆さが、特に読み取れました。
   
    余談ですが、最初に読んだときにカフビという名前から性別が読み取れなくて、女性と勘違いしました。嫁さんの話が出たときに気づきましたが。つい登場人物で真っ先に女性を想起してしまうのはエロゲーマーゆえですね(苦笑)
   
  

    3章では、罪の告白がそれぞれのsideでなされます。私が好きで共感したのが風香sideなので、風香sideから触れていきたいと思います。
   
    ムーンマーガレット より
        >恵美に睨まれているこの状況に身震いしている。
        >隠し事をし続ける自分に嫌悪感を抱いている。
        >なによりも、友達を信用しきれなかった私自身に恐怖しているからだ。
       
        >「ごめん、恵美。私、言う」
        >「私に……私たちになにがあったのか、全部、包み隠さず」
   
        >逃げずに、恵美を見つめ直す。
        >真っ直ぐと、力強く、彼女へ告白する。
        >今までの弱かった私はもういない。
        >優人が傍にいてくれる、ずっと一緒にいてくれる。
        >だから、もう怖がる必要なんてないんだ。
   
    引用部分は自分自身の弱さに向き合いながら、自己暗示をかけて鼓舞する風香の気持ちが良く出た地の文だと思います。この部分の描写の丁寧さが風香の性格(特に脆いながらも見た目完璧を求めるところ)とも相まって、感情移入しやすかったです。
   
    なんで不安で より主に地の文を抜粋
        >全てを恵美に伝え終えるころには、空は曇天になっていた。
        >夕焼けは影に落ち、今にも雪が降りだしそうな寒さ。
        >そんな中でも、恵美はジっと黙って私の話だけを聞いてくれていた。
        >なにも言わず、ただ咎人の懺悔を耳にして。
       
        >恵美に怒られると思いつつ、本音を吐露する。
        >でも、恵美はニッコリと気持ちいいくらいの笑顔になり。
       
        >恵美の笑う顔を見て、少し心が晴れる。
        >思いつめていた自分が間抜けだったということなんだろうか。
       
        >笑って、軽口が叩ける。
        >いつもどおり、恵美と接せられる。
        >罪を告白することで、なにか壁ができてしまうかと思ったけれども、杞憂みたいだ。
       
        >恵美も、同じような傷を負っていて。
        >友達だからこそ、共有してくれて……なんだか、心が軽くなった気がし――。
        >
        >「今聞いてハッキリしたけど、アタシはあんたたちのこと、祝福はできない」
        >
        >胸の奥に、ピシリと亀裂が入った音が聞こえた気がした。
   
    そして、風香は罪の告白に至ったわけですが、そこでの風香の心の変化と分岐点に至るまでの引きつけ方も上手く乗せられました。引用部分は本番直前の緊張感を上手く叙述していると感じました。
   
    さて、ここで順番は前後しますが、優人sideの方にふれます。
   
    優人sideのお話は、店長がカフビをクビにするところから始まり、いきなり優人自身もバイトをやめる展開から始まります。序破急の急の強い側面がいきなり来る展開で始まりましたが、そこから逆に静的な流れに進んだように感じられました。それが優人からカフビへの罪の告白でした。
   
    こわくない より
        >俺たちのことをひとしきり話し終えるころには、身体はすっかり冷え切っていた。
        >近くの自動販売機で温かい飲み物を買い、カフビさんと一緒に飲む。
        >今まで飲んできた飲み物の中で、一番美味しいと思えた。
        (中略)
        >カフビさんはブランコからたちあがると、空を見上げた。
        >曇天の夜空、今にも雪が降りだしそうな寒さだ。
        >
        >「最後に、ユウの話、聞けてよかった。ありがとう」
   
    情景描写も含めて、静的な空気感がよく出ていたと思います。
    前述した風香sideの静的→動的への流れがありますが、これを上手く引き立ててくれているのがこの優人sideにおける静的な空気感であり、その流れをこのストーリー全体で引き継ぐことで、これに続く風香sideの動的要素がより重みのある内容になっていると感じました。
   
    風香sideの話に戻ります。
   
    すべて より
        >「拒絶はしない。起きてしまったことだし、当事者じゃないから」
        >「でも、ごめん。アタシは、同意できないんだ」
        >「姉弟で愛し合って、幸せになってなんて……許されたら、それこそ終わりだよ」
        >「終わりって……」
        >「物事にはルールが存在する。道徳っていう感情を、法律という名の規律でまとめあげてるんだ」
        >「それを破ること自体は仕方がないことさ。アタシだって褒められたものじゃない」
        >「でもね。破ったのなら、二度と過ちを犯さないようにするのが、人間ってものじゃないの?」
        >
        >恵美の言うことは、破ってしまった罪の意識を持ち続けろという戒めだ。
        >普通のレールから外れてしまったのなら、もう一生、その道を歩み続ける覚悟を持てと言っている。
        >その感覚が、万人に認められない。そうあるべきでないと、彼女は言っている。
   
    この風香sideの締めは全部取り上げたいくらいなのですが、あえてこのシーンを抜粋します。風香の告白に対し引用部分のようにはっきり言えるのが恵美の強さであり、恵美の風香に対する信頼でもあって、そしてその意味を理解する風香もやはり恵美に対する風香の信頼を見せてくれていると感じました。
   
    >「もし、アタシが風香の立場だったのなら」
    >
    >恵美は笑いながら、ゆっくりと歩き出し。
    >
    >「アタシは、あんたと同じこと、してかもしれない」
   
    最後のこれはベタな台詞ではありますが、こういう台詞がきっちりハマる流れが非常に綺麗だと思いました。
   
   
    さて、改めてカフビと恵美の比較をします。
   
        カフビ
            自身の罪を受け入れ、母国へ強制送還
            優人の罪とのつながりを持った
        恵美
            自身の罪を背負い続ける
            風香の罪には同意できない(けど友達)
   
    この違いが、優人の出した「答え」を導いていて、伏線回収としても綺麗でした。
   
    光について より
        >血のつながりじゃない。
        >法律的な関係性でもない。
        >お互いの痛みを抱えられる、精神的な強いつながりをもつ者。
        >それが、きっと家族と呼べる間柄だと思う。
        >真澄、お前は……こういう関係を望んでいたんだな。
        >決して離れない、真のつながりを。
   
    そして、本編のセンターヒロインである真澄あいのヒロイン力は強いなぁ、と改めて思いました。真澄あいは「心からの信頼とは何なのか?」という問いに「罪でつながる」のことに価値を見いだし、その影響を受けた優人が姉である風香とのつながりを罪に求める。そしてその「罪によるつながり」をより強固にするという選択をする。実に彼ららしい「答え」だったと思います。
   

    エッチシーンについてまとめて触れます。各章1シーンずつ計3シーンで構成されていますが、ストーリーの経過とマッチしていて、(単体としても申し分ないものですが)全体としての価値が高いものだと感じました。1章では、お互いに息を合わせるのにまだちょっとちぐはぐ感があって、最後の射精もあえて外だしを選んでいるのが憎いです(もちろん褒め言葉)。2章では、お姉ちゃんシチュですね。それを風香から指定しているところが、風香自身の心の迷いを示している感じがあって良いです。3章では、二人の心が重なり合っている感じが出ていて、言うまでもなく中だし。二人の距離感も反映している感じがより感情移入のポイントでもありました。
   


 がっつり引用しているため長くなりましたが、内容としては非常に良いものでした。特に全体を通して見たときの無駄のない構造と内容量の点が秀でていると思います。久々に本編をやり直したくなるくらい夢中になって読んだ内容でした。気になった方はぜひ最初のリンクより読んでみてはいかがでしょうか?(と言ってもネタバレしまくっているんで、もうここまでたどり着いた方は既に読後かもしれませんが(笑))