本記事は、『君と彼女と彼女の恋。』の感想記事です。
本作は「いかにエロゲにおけるシナリオとテキストを見ているか」の指標となる作品だと思います。
なお、ネタバレありの記事ですので、その辺承知の上でご覧ください。

Basic012




さて、この作品に対する私の感想は、非常に単純です。
「ゲームとしての評価は高いけど、テキストの評価が著しく低い」
これにつきます。

そして、本記事はこのことに関して事細かに言語化していく記事になります。
お付き合いの程よろしくお願いします。



さて、テキストの評価が低いと言いましたが、これには二つの側面があります。

X. 恋愛描写が下手くそ
Y. 選択肢の問題

この作品は「エロゲ選択肢に対するアンチテーゼ」がConceptの一つになっていると思います。
なので、「選択肢に対するメタシナリオゲー」というのが、この作品を示す端的な表現の一つと言えるでしょう。

このX,Yの2つの要素をシナリオ構造を追いながら、見ていきたいと思います。

本作のシナリオ構造は以下の5段階になっています。

①Opening
②美雪ルート(アオイアップデート後ルートA)
③アオイルート(アオイアップデート後ルートB)
④プレイヤールート(美雪アップデート後ルート)
⑤Ending

まずはXの恋愛描写に関して、最初から順番に見ていきましょう。

①Opening

まず私はここで挫折しそうになりました。
とにかく恋愛描写が下手くそ。
なぜ美雪にこのテキストで興味が持てるのか分からない。
幼なじみなら、恋仲になるわけじゃねぇんだよ。
属性に惚れるわけじゃねぇんだよ。
ということで、私はまずアオイルートに行こうとしてBadEndに至りましたとさ。

……とりあえず次に行きます。


②美雪ルート

性的接触(キス)をするお話になれば、ヒロインに興味を持つ......わけないだろ!!!!

そういう系のお店に行って、是非体感してみると分かりますよ。
性的接触だけで反応するのは、若い頃の生理反応なだけで、恋愛の恋の要素は一切ないって分かりますから......。まじでその人とエッチしたいと思えなかった(なおそこはエッチするお店ではなかったんですが)。

キスを強調する演出がここまでに何回かありました。
でも、それでヒロインに興味を持つわけないんですよ。
これおそらくテキストが弱いから、強い演出でどうにか形にしていると思います。
音声作品でシコシコやられるのと同等の表現技法であり、私の感想は「演出頑張ったね」と言うレベルです。これはテキストの弱さが出ているポイントだと思います。

まあ、このくらいだったら、私も貶すつもりにはなりません。

ぶっちゃけ告白に至るシーンが最悪なんですよ。

キスが印象に残ってたからって、演劇を邪魔しようとするか?
ヒロイン共々、社会的抹殺されてしゅーりょーですよ。
一応、色々事故ったから事なきを得てますけどね。
この展開のテキストを考えること自体がどうかしていると思います。
主人公に社会的破滅願望があるなら分かりますが、そんな主人公設定ではないのでボツ。


③アオイルート

この作品でガチのヒロインらしい行動をしてるのは、アオイだと思います。
アオイはすっごく主人公のことを思って行動しています。
当初美雪とくっつけるためという的外れな行動を取りますが、自身の恋愛感情に気づき、行動をアップデートします。そこで電波な感情のないボイスから徐々に人間味のあるボイスに変化するのはすごく好感が持てますね。やはりアグミオンの腕は良いですな、まじで。

このルートの最大の問題点は主人公のキチガイムーブですね。
選択肢の項目で詳しく触れますが、アオイルートから逸れるための選択肢が馬鹿みたいに多いんですね。つまりそこまでアオイのことを信用してないと、このルートに来ることができないんですよ。
な・の・に、主人公が幼なじみの言葉で軽々しくアオイを信じないなんてことあります???
シナリオのConceptにテキストが負けた瞬間だと思いました。

④プレイヤールート

この作品が評価される一番のポイントだと思いますし、私も素直に賞賛します。
このルートをプレイヤールートと表記したのは、(狂った)美雪がプレイヤーを攻略するルートだからです。
だから、恋愛描写が少し下手でも許容できます。
このルートは、美雪が頑張って作ったルートなんですから。
美雪が美雪のことを知ってもらうために不器用に自己紹介し、そしてプレイヤーを最後に攻略するエッチシーンは、これぞエロゲらしいエッチシーンで魅せてくれたと思います。




さて、ここからはYの選択肢の問題について触れていきます。
まず一般的なお話から話していきます。

ADVゲームにおける選択肢は大きく分けて4種類だと思います(←あくまで私の基準です)。

A. 話が大きく分岐しない選択肢(ただし分岐フラグになっている)
B. 話が大きく分岐する選択肢
C. 話が大きく分岐しない選択肢(分岐フラグにもなっていない)
 →C1. 選択肢を選ぶ=プレイヤーの発言として受け取らせる選択肢(演出寄りの選択肢)
 →C2. 選択肢を選ぶ=会話の適度な分岐になっている(対話寄りの選択肢)

一般的なゲームで言うなら、次のような言い方の方がイメージしやすいかもしれません。

A. 共通ルートの分岐の選択肢
B. 個別ルート直前で分岐する選択肢
C. ルート内の分岐に無関係な選択肢

なお、A型もA1型,A2型で分けられるのではないか、という意見もあると思いますが、最近のゲームだとほぼA2型だと思うので、今回は単にA型と表記することにしました。


では、主なルートを見ていきましょう。

④プレイヤールート

美雪がプレイヤーを攻略するのに利用したのは、選択肢です。
無駄に多いA型の選択肢を選ばせ、美雪のことをプレイヤーに理解させました。
最後の美雪に関する選択肢は、選択肢が作る良いゲーム性だと思います。

それと同時に、選択肢がいかにイケてないかを美雪は嘆きました。
選択肢を機械的にポチポチする作業を良くない、と。
それでもなお、私のことが分かるようにした、と。

そういう主張を出しているからこそ、最初に「エロゲ選択肢に対するアンチテーゼ」と称しました。

③アオイルート

このルートは、大量のB型の選択肢で出来ています。
攻略関連のことが記載されたネット上の記事曰く、B型で②へ誘導してるらしいですけど。
絶対に美雪を攻略したくなかったので、全ての美雪フラグをへし折りましたね。

一方で、大量のB型の選択肢が、恋愛描写のテキストを制限したと思います。
④プレイヤールートへの誘導のために、アオイルートにC2型の選択肢(話の展開)が設けられなかったのは、B型の選択肢が美雪の用意した選択肢だったためだと言えます。だから、おかしな行動でもプレイヤーに対して選択肢を用意できず、主人公の行動が歪んだと思われます。

②美雪ルート

このルートで多い選択肢は、中途End型のB型の選択肢ですね。
基本的に美雪がくっつこうと、アオイも主人公と美雪とをくっつけようとしているわけです。
そうなると、このタイプの選択肢になるのは妥当だと思います。

⑤Ending

この最後のルートで、C1型の選択肢を大量に出すんですね。
それも一択型の選択肢を。
主人公(プレイヤー)に無理矢理言わせるために。

この吟味をここからしていきます。


主張a. 作品全体の選択肢がConceptの主張対象である。
→④までで十分主張できており、⑤にて必要なのか?
→④を受けて、プレイヤーに⑤にて主張させる意味は?

主張b. ④までConceptを提示しきって、その上で⑤を出している
→そこまで否定してきた無駄な選択肢を⑤で肯定する理由が不明。

私の思考のメインラインを出しましたが、⑤にてC1型を出すことを一切肯定できないんですね。

主張c. テキストのパワーが弱くて、それを強調するためにC1型で演出した

これは一応⑤のみで見たら、筋が通っているんですよ。
しかし、もしこれだったら、さすがにConceptとの整合性があまりにも悪すぎるんですよね。
万が一、主張cなら、この作品がこの作品自体を否定しているってことになるんですよ。信じられないことに。

さすがにそんなことはないと思うんで、他に意見があれば教えてくださいって感じです。





ということで、XとYの両方の要素で総合的に見たとき、④のルートに関しては高く評価できるものの、④以外がいかんせん酷く、とても恋愛の皮を被ったゲームとは思えません

本作品が世間的にそれなりに高い評価を受けているように見えるんですが、④を高く評価しているだけではないか、と私には思えるわけです。

そうなると、本作品をシナリオ構造だけで評価していて、テキストを全く加味してないのではないか、と思えるわけですね。

ただ、その一方で上述で示した通り、Conceptを否定している可能性まであるので、本当に大丈夫か?と思うわけです。

まあそんなテキストであっても、ゲームとして成立しているのは、テキスト以外の力(絵、演出、プログラム、CV、音楽などなど)があってこそだと思います。
ただ、エロゲはあくまでテキストが建物を支える重要な柱であり、弱みを無理矢理支える状態が健全だとは思えません

そういえば、似たような内容をもっと辛辣に書いた記事がありましたね。あれはシナリオ構造が極端にダメな例でしたけど。

私個人としては、本作は、WritingとDirection(Edit)を同一人物がやることの限界が出てるのではないか、と思えてなりません.......。


本作のライターさんの作品は、凍京ネクロを以前プレイしたのですが、そういえば純愛要素の記憶が一切ないので、きっとそういうのが書けないライターさんなんでしょうね。悲しいことに。