本記事は、Soire(ソワレ)から2020年1月に発売された作品『サルテ』の感想記事です。
ネタバレ要素が一部含まれますが、重要要素は伏せる形で提示しているため、購入検討者が一考するための内容となっています。
コメント 2020-01-31 222717



まずはサルテの体験版の感想から述べていきます。



正直、ここまで体験版の感想を端的に書くことは過去なかったと思います。
しかしながら、それでは物足りないものだと思うため、詳細について触れていきましょう。

本作は、まずチャップリンの言葉の引用から始まります。
"Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot."
「人生は主観的に見ると悲劇だが、客観的に見れば喜劇である。」

いきなり引用で始まるということは、その言葉を「主題」として扱うと読者に明示することなります。

ここから語られるのは悲劇ばかりです。
サルテ自身に降りかかるIron Meidenの悲劇、ゲーム内で始めに演じている劇。

後者から少し引用しましょう。
「あぁ、やっぱり私は稚拙な道化」
「折角の舞台も、夢を見ることなく幕が降りてしまう」
「――私はなんて間抜けな、悲劇の主役(ヒロイン)だったんだろう」
ただ、彼女が主演を演ずる劇の演目は『嘘』と語られます。

劇を見る人間からは、悲劇は「嘘」だと既に明示されているわけです。
つまり、最初の引用の通りだと、こういった悲劇は「嘘」であり、真は喜劇だとメタ的に作者は語るわけです。

引用行為というのは非常に重い行為であり、それをしたからには書き手自身の言葉で語らなければなりません。だからこそ、プロローグの最初から「悲劇」を「嘘」だと改めて語りに行ったのでしょう。

プロローグの最後では、登場人物4人全員が復讐的描写の元に「殺す」ことを宣言しています。
ただし、誰が誰に殺意を持っているのか?をわざと隠した状態でプロローグが終わりを迎えるわけです。

プロローグは断片的描写を沢山ちりばめる形式でした。時系列を曖昧にした状態で断片的描写を続ける形をとり続けました。それも「誰が話しているのか」をテキスト的に語られない状態で(もちろんボイスで判別はつきますが)。
しかしながら、最後に登場人物それぞれが誰かに対して何らかの理由で殺意を持っていることを明示することで、読者の視点をきっちり誘導していること、つまり誰が誰に殺意を持っているのかを読者に考えさせることで、作品への吸引力を持たせているのが、非常に綺麗な点だと思います。この点がプロローグの構成として、個人的に評価の高い点です。

本編は、サルテとクルーン(案内役)という二人の登場人物から始まります。
クルーンによりサルテの死が明らかにされます。ただしサルテには死の理由の記憶がないため、サルテは追体験にてその理由を探すことになります。
体験版で追体験の1周目が語られますが、1周目は悲劇にてサルテの人生は幕を閉じます。
しかし、クルーンによりその事象は否定され、2周目に突入するところで体験版はおわりでした。

実際、この体験版で語られたものも引用の通りです。
この物語は悲劇ではない、読者(クルーン)が観測すべきは「喜劇」であるべきだと。

つまり、この物語は最初の引用に従い続けているわけです。
引用の重みを理解して、物語を率直に紡いでいるわけです。
この丁寧さと、先に述べたプロローグの吸引力を私は非常に高く評価したため、端的に構成がしっかりしているとツイートで述べました。








それでは製品版の話に移ります。

シナリオ構造は一本道で枝葉分岐型の方式。
枝葉は基本的にBADENDで、ConfigにてBAD選択肢を選択肢時点で明示するかを設定できます。

一幕あたりのシナリオの流れは、

囚われのサルテ→陵辱シーン→選択肢→結果→クルーンとの会話

で出来ています。

物語が徐々に進みつつ、伏線が張られ、最終幕から回収される流れは非常に綺麗なものでした。

最終的に、チャップリンの喜劇の引用になぞらえた点は、作品の骨子の太さを象徴しており、伏線回収としての説得力を引き出している良いものでした。

サルテにとっての自分自身の人生を「喜劇」とする最大の表現方法が、あの結末とするなら納得です。クルーンの正体がサルテでなくては納得いかないところが複数見られたので、クルーンが仮面の中に素顔があることを明示するシーンで、クルーンの正体に確信を抱きました。しかし締めの説得力の強さがあり、気づけてもなお「この作品は良い」と思わせるものでありました。

主演CVは、メイメイこと御苑生メイさんですね。実に素晴らしきサルテを演じられたと思います。陵辱シーンも魅せるシーンも幅広く演じられる、素晴らしい内容でありました。他のCVの方々も勿論、作品世界観に沿った良いCVだったと思います。

絵に関しても、原画と塗りがマッチしており、陵辱されながらもそのヒロインの美しさを失わせないところが良かったです。

演出や効果音も適切に使われており、システムも安心のワムソフトでした。
細かいところは実例を挙げないとキツいので割愛します。



以上の通り、特に非の打ち所がない感じの内容でした。
ですので、体験版に触れてみて、気に入れば製品版をプレイしてみてはいかがでしょうか。

最後になりますが、本記事を読むことが、(エロゲーマーとして)悲劇ではなく喜劇への一歩であることを私は願っております。